この記事の大福が禁止うんぬんの記述はすべてフィクションです!!
時は西暦20xx年
政府により大福の製造販売所持禁止令が敢行された。
大福に麻薬成分が認められたのである。
つまり、大福を食べるとその麻薬成分が多幸感をもたらし、常用により依存症になるおそれがあるということなのだ。(※本当はなりません)
近年ではハッピーターンに付いている粉末に中毒性があるなどとして、厚生労働省が薬物指定をしたというニュースもあり、国民が愛食していた食べ物が禁止されるというような事例が相次いでいた。
大福に関しては以前から、大福を食べた老人が窒息死するという事例もあり、大福の危険性が議論されていた。
日本の代表的な和菓子である大福が禁止されるということに異論を唱える者も数多くいたが、不思議とすぐにその熱もおさまり、しばらくすると大福を食べてはいけないという認識が多くの人にとって当たり前になった。
――大福が禁止されてから3年が経とうとしていた。
ニュースでは連日、大福の違法摂所持や違法取引による逮捕者が報道されていた。
ニュースが報道され警戒態勢が強まる一方で、大福が禁止されても大福を愛して止まない男がいた。
Mだ。
彼は大福が禁止される以前から毎日のように大福を食べており、大福が禁止されてからも麻薬成分を含まない「雪◯だいふく」をよく食べていた。
大福への募る想いは、大福に含まれていた中毒成分のせいだからなのか、純粋な愛からなのか、Mは分からないでいた。
そんな想いを抱えていた彼のもとに1本の電話がかかってきた。
それは、彼の中学時代の同級生Kからだった。
2人は中学時代はよく遊んでいたがKは有名進学校、Mは工業高校、それぞれ別の高校に進学してそこから疎遠になっていた。
エリート街道を突き進んでいるであろうKからの突然の電話。
Mは疎遠になっていた友人からの電話に嬉しさ半分、疑い半分で出た。
K「おお、M、久しぶり!」
M「K、久しぶり」
K「お前さ、大福好きやったやんな?」
M「う、うん、好きやったで」
K「今度食べへん?」
M「えっ?い、いや…」
K「明後日時間ある?」
M「え、まあ…」
K「じゃお前んち行くから待っといてや!」
M「えっ、ちょ…」
ツーツーツー
Kから半ば強引に大福を食べに行かないかと誘われたM。
戸惑いの裏側で、密かな期待に胸が膨らんでいた…
――そして当日。
2人は篠山市にある和菓子の老舗「大福堂」に来ていた。
大福堂は、大福が禁止される以前は大粒の黒豆の入った生餅で餡を包んだ黒豆大福を販売していたが、大福が禁止されてからは主にまんじゅうを販売している和菓子屋だ。(※普通に売ってます)
篠山産の山の芋を使った生地で、丹波栗をまるごと包んだまんじゅう「玉水」は絶品で、天皇皇后両陛下、秋篠宮夫妻も召し上がられたほどである。(※これは本当です)
百数十年続いている老舗だけに、その看板を降ろすことなく今も「大福堂」という名前で和菓子を販売している。
MはKに連れられてこの大福堂に来た。
M「ここって、今はもう大福は売ってないはずじゃ…」
K「いいから、見てなって」
店に入ると、店主がカウンター越しに立っていた。
店主「いらっしゃい」
K「KMDF、4つで」
その注文を受けて、店主が怪しげに笑う。
店主「いいの入ってるよ、2階へ来な」
そう言って、店主は店の裏へ入っていった。
M「KMDFって、一体…」
K「黒豆大福の隠語やで。店の前で普通に大福なんか注文できん。普通に”黒豆大福4つください”って言ったら”そんなもんうちには置いてない”って追い返されるんがオチやからね。隠語を使うねん」(※そんな隠語はありません。そして追い返されません)
M「そうなんや…、Kは何回か来たことあるん?」
K「いや、今まで大福は何回か食べたことはあるんやけど、ネットの裏サイトとかで注文してたやつしかなくて、本格的な店で食べるんは初めてやねん。知り合いが”大福堂の大福はヤバい。飛べる。“って教えてくれたから、じゃあ行ってみるかーと思って」
そんな会話をこそこそと交わしながら2人は大福堂の階段をあがっていった。
大福堂の2階は茶房となっており、大福堂の菓子を店内で食べることができるスペースである。
2人はそこにある4人がけのテーブルに座った。
K「楽しみやな〜!」
Mはテンション高めのKの横で不安を募らせていた。
大福を食べるということ、それは犯罪を犯すということに他ならないからだ。
ただ、Mは大福のあの味が忘れられなかった。
もう一度食べてみたい、だけど、食べてしまうと犯罪者だ。
Mの心臓の鼓動が高くなっていた。
それは、不安から来るものなのか、大福を食べられる喜びから来るものなのか、M自身にももはや分からなかった。
そんな考えが渦巻いている間に、店主が黒豆大福を持って現れた。
店主「はいよ、KMDF4つ」
K「きたー!」
黒豆大福がテーブルに置かれるや否や、Kはそれを手に取り頬張った。
K「うまーーーーっっっっ!!!!」
目をギラギラさせてKは叫んだ。
K「マスター、これめっちゃうまいっす!!甘すぎず、大福なのにあっさりしていて、何個でも食べられる!!しかも大粒の黒豆の食感にアクセントがあって、二度美味しい!!やばい!!!」
店主「だろ?」
店主は照れ隠しのためか”当たり前だ”というような表情で、それでいて少し嬉しそうに頷いた。
店主「そっちのあんちゃんは食べへんのか?」
そう言いながら店主はMを指さした。
M「いや、僕はいいです…!」
Mはまだ踏みとどまっていた。
K「こいつ、めっちゃ大福が好きなんですけど、大福が禁止されてから大福を食べたことないんっすよ」
店主「そうなんか。騙されたと思って食べてみいや、美味しいで」
M「だって、ほら、この白い粉… ヤバくないっすか?」
Mは大福についている白い粉を指さしながら言った。
この白い粉は、もしかしたら麻薬かもしれないからだ。
K「それ、米粉だから」
M「・・・」
M「じゃあ、ほら、これ… この黒い練り物、ヤバイでしょ…」
大福の中の薄黒い練り物。
もしかしたら、麻薬成分を練り固めて作ったものかもしれない。
K「それ、あんこだから」
M「・・・」
Mは恐る恐る大福を手に取った。
M「うまい!!!!!!!!!!!」
Mの脳裏に衝撃が走った。
それは大福に含まれると噂される麻薬成分のものではない。
そう、それは黒豆大福の純粋な美味しさが生み出した衝撃に他ならなかった。
K&店長「だろ??」
M「こんなに美味しいものを僕は今まで食べていなかったなんて…。雪◯だいふくなんか比べ物にならない…!!外側の餅も、すごく柔らかい…!!」
店長「そりゃそうやで、スーパーで売ってるもんとは比べ物にならんで。うちの黒豆大福の餅は純正の餅を使ってるから明日になると硬くなってしまう。日持ちはしない、でも、だからこそ、美味しいねん」
M「だけどこれも大福に含まれる麻薬成分が生み出した美味しさなんですよね…」
店長「ハハハ、実はな、大福に中毒性なんてないで。あれは政府が作りだしたウソや」
M「えっ…?」
店長「実は、日本の大福は全部海外に流れてるんや」
店長の話によると、大福が政府によって禁止されたのは大福に麻薬成分が含まれていたからではなく、海外の大福好きの超富裕層たちの財閥「DFDS」が大福を独占してしまったからだという。
DFDSの圧力により政府は国内での大福供給を停止し、すべての大福をDFDSに流しているらしい。
そしてこの店長、実は祖父がDFDSに所属していたということもありそういった裏事情を知っていたのだった。(※そんな組織ありません)
店長「というわけやから、まあ表向きは麻薬成分が入ってるとかどうとか言われてるけど、ほんまは昔からそんな成分は入ってないんや。うちの大福だって、なんも怪しい材料は使ってないで。米も、あんこも、黒豆も全部篠山から仕入れたものや」
M「そ、そうだったのか…」(※そうです)
店長「そう。その証拠に、大福を所持してるやつは今までいっぱい逮捕されてきてるけど、和菓子屋は検挙されたことがない。和菓子屋を検挙したら、海外に供給するための貴重な生産ラインを止めることになってしまうからな」
M「じゃあ、本当に大福は昔から変わらないままの大福だったんですね…」
店長「そう。もしあれやったらまた食べに来たらいいよ。でも、食べてるところを見つかったらお縄になってしまうから、そこにだけは注意してな」(※お縄になりません)
M「は、はい…!!」
K「よかったやん、M!」
M「うん!」
興奮冷めあらぬ様子で店を後にするM。
しかし彼は重大なミスを犯してしまっていた…
警察「すみません、ちょっといいですか」
通りがかりの警察が怪訝そうな顔でMを見ながら近づいてきた。
M「えっ、は…はい」
警察「その、口の周りについている粉はなんですか?」
M「えっ、こ、粉!?」
警察「ちょっと調べさせてもらってもいいですかね。署までご同行願えますか?」
M「い、いや、それは…えっ…!」
Mはあろうことか口の周りに大福の粉を付けたまま店を出てきてしまった。
Mはこの後警察に取り調べを受け、大福所持の疑いで逮捕されることとなった。
・・・
M「ハッ!!!」
M「な、なんだ…夢か…」
M「ヘンな夢見ちゃったな…」
完
何度も言いますがこの物語はフィクションです。実際に大福は禁止されていないし大福堂では普通に大福が買えますし大福を食べても逮捕されないし大福を食べただけでは口の周りにあんなに粉は付きません。
しかし、大福堂の黒豆大福が美味しいということに嘘偽りはありません!!
出演
M:ミノウラ
K:ニシモト
店主:小林さん(大福堂専務)
大福堂さん、小林さん、ご協力ありがとうございました!